東京高等裁判所 昭和62年(う)76号 判決
所論は,原判示事実第2の被害者伊澤正志及び同野村慎一の各負傷の程度は原判決が認定判示しているところよりも軽微なものであるから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある,というのである。
よつて,原裁判所が取り調べた証拠を調査し,当審における事実の取調べの結果を参酌して検討すると,所論被害者伊澤は,本件事故直後から頸部の痛みを訴え,医師による診察の結果頸椎捻挫により10日間の安静及び通院加療を要する旨の診断を受けたところ,医師による治療自体は本件事故の翌日に受けたのみであるけれども,同日交付された5日分の湿布薬を使い切るまで,首の湿布を続け,昭和61年5月2日ころ首の痛みが消退したことが認められ,また,所論被害者野村は,本件事故の直後から頸部の痛みを訴え,事故の翌日における医師の診察の結果,頸椎捻挫により3週間の通院加療を要する旨の診断を受けたところ,通院治療自体は同年4月28日及び同年5月19日の2回受けたのみであるけれども,本件事故の翌日から2,3日間薬を飲むと共に首に湿布をし,同年5月4日ころ首の痛みが消退したことが認められ,右によると,本件事故により伊澤の受けた頸椎捻挫の傷害及び野村の受けた頸椎捻挫の傷害の程度につきその各全治までの期間は,関係証拠上,受傷当初の医師の診断より短かく前者については,少なくとも約6日間,後者については,少なくとも約8日間であつたと推認する余地があるといわざるを得ない。
してみると,右伊澤及び野村の各傷害の加療必要日数につき,当初の医師の診断における見込み日数に従つて各原判示のとおり認定した原判決には誤認があるというべきであるが,本件各犯行の罪質,態様,とくに過失行為の態様・程度,結果たる被害の程度全体(なお,原判示事実第2の被害者3名のうち前掲以外の鈴木は,事故直後から首,腰,左足が痛み,本件事故の翌日医師の診察を受けた結果,頸椎捻挫,腰部捻挫,左膝部打撲傷により全治約1か月間を要する旨の診断を受け,翌4月29日から同年5月19日まで入院して治療を受けたうえ,退院後も同年9月29日まで2,3日に1回の割合で通院治療し,その後も肩がつつたり首がつつて痛む等の症状があつたので,10日に1回位の割合でマツサージを受けている((同62年3月11日現在))という治療経過が認められる。ただし,原判決が右鈴木の負傷の程度につき本件訴因の範囲内で原判示のとおり認めた点に,もとより事実誤認があるとはいえない。)等にかんがみれば,右の程度の事実の誤認はいまだ判決に影響を及ぼすことが明らかであるとはいえないから,結局,論旨は理由がない。